Chapter23.海賊編② ふたり
真夜中の海。白波の上にはまあるい月が浮かぶ。私達を乗せていた海賊船はギィギィと大きな音を立てて揺れている。
わたしはこの痛みを生涯忘れない。あなたに愛された証だから。
ありがと、愛してくれて。そして、
―――さよなら、おじさん―――

わたしたちを乗せた海賊船は順調に航路を進んでいた。苦戦していた船上生活も1週間もすると慣れて来た。
なにせあの奴隷港で生活をしてきたんだし、寝所があるだけマシだよね。

夜毎、わたしはヒュプノーシスでの出来事を思い出し、寝付けない日々が続いていた。
ようやく家族を失った辛さを克服できたと思ったら、今度は淫魔に襲われかけた事がトラウマとなっていた。
傭兵ゾハル「...悩み事か?」
耳馴染みのある声にハッとし、改めて立ち尽くしている自分に気が付く。

リノン嬢「おじさんに隠し事はできないね」
傭兵ゾハル「そりゃそうだ。何年おまえの面倒を見てきたと思ってる」
リノン嬢「デリックに襲わそうになった時、凄くこわかったの。汚いかな」

傭兵ゾハル「汚れてなどいない。おまえはおまえのままだ」
ちょいちょいと手招きしている彼。どうやらこちらへ来いということらしい。奴隷港から出て以来、わたしたちの距離はグッと縮まった気がしている。
リノン嬢「...へへ、あったかい」

傭兵ゾハル「オレがいる。ずっと一緒だ」
おじさんはいつにも増して優しい声でそう呟いた。私はこの声がたまらなく好きなのだ。
リノン嬢「...うん」
傭兵ゾハル「オレは、おまえがいればそれでいい。サキュバスでもドレモラでも構わない」
リノン嬢「ふふッ...でもドレモラはちょっとイヤかなぁ」

すると、また涙がポロポロと溢れ落て来た。感情のコントロールは得意な方だと思っていたが、わたしは案外表面に出るらしい。
リノン嬢「ごっ...ゴメンおじさん、もう大丈夫!大丈夫だ...か、らっ...」

親指の腹で、そっと涙を拭ってくれるおじさん。
傭兵ゾハル「泣き虫なのは、変わらないな」
はにかんだ笑みを浮かべる彼。重なり合う唇と唇。言葉を失う瞬間。本当のキス。
それは言葉で言い表せないくらい、甘くて、胸がきゅっとなった。

リノン嬢「おじさん」
傭兵ゾハル「なんだ?」
リノン嬢「もっと強いつながりが欲しいの。わたしがわたしじゃ無くなる前に」
傭兵ゾハル「...」
リノン嬢「もう子供じゃないよ?」
この人に触れたい。この人に愛されたい。わたしは勇気を振り絞って着ていた寝着を脱ぎ捨てる。

傭兵ゾハル「...」
目を丸くする彼。自分でもこんなに大胆になれる自分に驚いている。
リノン嬢「...な、なんか恥ずかしいね。あまりジロジロ見ないで」
すると、おじさんも服を脱いで行く。鍛えた上げられた身体に目を奪われるが、それ以上にヒストの副作用が深刻だった。
傭兵ゾハル「気色悪いだろう?」

リノン嬢「そんな事ない。ひんやりして気持ちがいいよ」
暖かい。素肌で触れ合うとこんなに暖かいんだ。こんな日に限って船内は静まり返っている。
心臓がドキドキする音が聞こえなければいいな、そんな事を心配していた。

傭兵ゾハル「まだ怖いか?」
リノン嬢「おじさん、わたしを離さないで」
傭兵ゾハル「ああ。これからもこの先もおまえを一人にはしない」
彼の指先がわたしの身体に触れる。指が、舌先が触れ、熱を帯びる。彼の舌が首筋を這い上がると、思わず照れ臭くなって顏を背けてしまった。
リノン嬢「んンッッ...くすぐったい」

いつもとは違った触れ方をされ、嬉しいような、恥ずかしいような、そんな感情で胸がいっぱいになる。互いの体温をしっかり確かめ合った後、ついにその時は訪れた。
傭兵ゾハル「リノン」
リノン嬢「...は、はい」
傭兵ゾハル「もう、止めるつもりはない。いいんだな」

リノン嬢「うん。優しくしてね」
傭兵ゾハル「ああ」
いつからだろう。わたしがこの人を愛したのは。思い出すのも難しいくらい、ずっと、ずっと好きだった。一度は諦めたこともあった。色々、本当に色々あったな。

傭兵ゾハル「なぜ...泣く?」
リノン嬢「なんでだろ。色々思い出しちゃって」
わたしを支え、勇気付け、笑わせ、泣かせ、守ってくれた人。
傭兵ゾハル「オレがいる。これからも、ずっと。だから泣く必要はない」
小さく頷く。泣いてるのか、笑っているのか、自分でも良く分からない感情に戸惑う。
リノン嬢「おじさん...」
傭兵ゾハル「ああ」
ゆっくりとおじさんはわたしはひとつになる。現実は書物と違い、思っていたよりずっと痛い、無理かも知れない、というのが正直な感想だった。
リノン嬢「っ...痛ッッ...!!!!!!!!!」

傭兵ゾハル「...痛むか?」
リノン嬢「だ、大丈夫っ。やめないで」

リノン嬢「く...んんんッッ!!!!いッッッツ!!!!!!!!!」
傭兵ゾハル「...止めるか?」
リノン嬢「だ...だめッ...このまま、最後までしてほしいの」
傭兵ゾハル「...いいんだな」
リノン嬢「う...ぅンッ」

お願いです九大神様。わたしからこの人を取り上げないでください。この人がわたしのすべてだから。

そして、夜が更ける頃、わたしの一番大切な思い出は終わりを告げる。

わたしはどこにいても、何をしていてもあなたを忘れない。
だから一秒でも長く生きてください。
ーーー大好きなおじさんへーーー
